アメリカ時代から、次第に森有正にハマッていきましたが、
パリに行ってからは、正に24時間、「ズブズブと」森有正に耽溺しました。
全集を、毎日手当たり次第に読みました。
そうするうちに、
自分が森有正なのか、森有正が自分なのか、
分からないような感覚になってきました。
ある日パリの本屋さんで、
「森有正論」という本を見つけ、
さっそく買いました。
著者は、杉本春夫さんという詩人で、
何と住所は山口県岩国市、とありました。
私の実家から近いので、びっくりしました。
さっそく帰郷した時に訪ねました。
とても歓待してくれて、
森有正やさまざまなことをお話しました。
そのうちに、
「君はぜひ埴谷雄高さんに会いなさい。」
と言われました。
私は内心、「えーーー埴谷雄高?」
と思いました。
なぜならば、大学時代にある後輩から、
埴谷雄高さんの著作が素晴らしいよ!
と言われて、代表作という「死霊」を読んでみたところ、
もう全く読めない、とてつもない代物だったからです。
でも、杉本さんは大いに勧めてくれます。
そのうちに、埴谷さんから返事があったとのお電話があり、
約束の日時をセットしてくれました。
夏の暑い日でした。
井の頭公園の近くのご自宅に訪ねて行くと、
埴谷雄高さんは、そこにいました。(当たり前ですが・・・)
埴谷さんは、深い深い深い眼をした人でした。
宇宙開闢から、無限の闇まで見通すような、
神秘的な眼をした方でした。
こんな眼を見たことがありません。
「ギリシャ時代のソクラテス、プラトンはどう思われますか?」
とお聞きしました。
そうすると、ぴっと居ずまいを正して、こう言われました。
「ソクラテスのいたギリシャ時代というのは、
人類の叡智が最高峰に達した時代です。
そこから現在まで、段々低下していく一方です。
私の書いたものなんて、
もうどうしようもないようなものばかりです。」
と言われます。
もうびっくりしてしまいました。
プラトンを読むと、
余りの叡智に圧倒されているばかりで、
埴谷さんの著作についての評価はともかく、
ギリシャ時代について、似たような感覚を抱いていたのですが、
ここまで端的に言われて、
本当に衝撃でした。
そして、「小林秀雄はどう思われますか?」
と尋ねると、
またもや埴谷さんのエネルギーがピッとなりました。
「小林秀雄は、日本人の文学者の中で、
ただ一人だけ富士山のてっぺんまで登った人です。
5合目か6合目までは、
フランス文学やロシア文学の助けを借りて登ったけれども、
そこから先は、独りでてっぺんまで登った人です。」
と言われます。
またしても吃驚してしまいました。
日本の文学者の中で、唯一てっぺんまで登った人、とは・・・・・
そこまで言うか・・・
埴谷雄高さんと小林秀雄とは、一般的なイメージとしては、
全く真反対のような、対極的な存在のように思われています。
埴谷雄高は、元共産党党員で左翼、
小林秀雄は、体制派で右翼的。
というイメージを持っている人も多いようです。
小林秀雄については、あれほど読みましたから、
右翼的とはもちろん思ってはいませんでしたが、
埴谷雄高が、小林秀雄をそこまで高く評価しているとは、
夢にも思いませんでした。